カセットデッキは時代おくれ
通信教育では、普通のカセットデッキや安価なテレコを使い、手書きで原稿用紙のマス目を埋めていくという方法が取られているようです。最近はやっとトランスクライバーの貸し出しを始めたところ、「ワープロでも構わない」と方針を変えたところも出てきましたが、やはり世間の実状に合わせざるを得なくなってきたのではないでしょうか。
編集者などは、自分で取材したテープを普通のカセットデッキで起こしたりしていますから、カセットデッキでもたしかにできないことはありませんが、それはテープ起こしが本職ではないからできることなのです。毎日毎日それを仕事として続けるとなると、もうトランスクライバーなしには考えられません。カセットデッキでは拾えない音も、トランスクライバーを使えばいとも簡単に聞こえてしまいます。仕事を依頼する側からみれば、穴あきだらけのデータを納品するワーカーよりも、音の悪いテープでもしっかり拾って文字にしてくれるワーカーに頼みたいと思うのは当然のことです。
では、なぜ通信教育では「普通の家庭にあるカセットデッキで充分」だと言っているのでしょうか。
私にもよくわかりませんが、おそらくこの仕事にはトランスクライバーが必要だということを明言してしまうと、それだけで6万円の受講料が倍の12万円になってしまいます。テープ起こしの理論や表記を学ぶだけだったら、トランスクライバーは必ずしも必要ないわけですから、できるだけ受講者を多く集めるために、受講生の負担を低くおさえる料金設定にするために「家庭のデッキで十分可能」ということにしたのではないかなと想像しています。
通信教育を受ける方や受けている方にしっかり認識していただきたいのは、その通信講座を受けるだけであれば、家庭のデッキで充分だということです。けれども実務では不十分だということですね。広告の真意を見抜くというのは、本当に難しいものです。テープ起こしの講座を広く受けてもらうためには、家庭のデッキで手軽にできるという条件設定が必要だったのだと思います。だから教材のテープも、家庭のデッキで聞き取れる程度の音質の良いものが選ばれているのだと思います。
ゆくゆくはトランスクライバーを使わずに、しかも指の動きを一寸たりとも止めることなく入力ができるような新しい機器の開発が待たれるところですが、現在の状況ではトランスクライバーの操作をマスターすることは必須です。
いざ開業すれば、ライバルとの熾烈な競争が始まります。実務で扱うのは、音質のよいテープだけとは限りません。あなたがもしカセットデッキ派だとして、あなたに聞き取れなかった言葉を、トランスクライバーをつかったライバルは、再生スピードを変え、音質を変え、いとも簡単に起こしてゆくでしょう。
スピードの問題もあります。私もそうですが、高速入力者になると、テープを気持ち遅めに回せば、テープをあまり止めずに入力することができるようになります(もちろん、聞き取れない箇所は別!なんども聞き直します)。指の動きを少しでも妨げる要素は、タイピング速度の低下につながります。足で操作するトランスクライバーであれば、「あれ、今のところ、もう一度」と思った瞬間に、指はまだ今きいた言葉を入力していても、足に自然に「巻き戻し」の操作をさせることができます。今の言葉を入力を終了した瞬間には、もうテープは少し前に巻き戻っているので、間髪入れずにもう入力作業に入ることができるのです。入力の手をとめて、巻き戻しボタンを押しに指をちょっと移動する…その動きが、プロにとっては非常にもったいない無駄な動きなのです。
実際の仕事では、音の小さいものや、早口のテープがおかまいなしにどんどん来ますから、家庭のデッキでは無理だということを心の隅…いや、中心にしっかりとどめておいてくださいね。