音声認識ソフトと自由競争の時代

昨年、最高裁が画期的な判断を下しました。業界では大ニュースだったのですが、裁判所における速記者の養成をストップし、民間への委託化の方針を決定したのです。この背景には、社会的にも外部委託化の傾向が強まっていること、経費の問題、録音技術の進歩などがあるようですが、これからは裁判のテープ起こしが民間に流れてくることになりそうです。
速記者が行っていた仕事が民間にまわってくるということは、ただ仕事の受注量が増えるというメリットだけではなく、これからは民間技術者も速記者並みの高いレベルを求められるということになります。

音声認識ソフトの登場

自由競争の時代に入ってくると、いかにしてほかのワーカーとの差別化を図るかということが各自の課題になります。今、一部のオペレーターや専門業者が注目しているのは、もちろん音声認識ソフトです。今の音声認識ソフトは、はっきりいって実務ではあまり使いものになりません。最初に自分の声を5分程度パソコンに覚えさせ、テープの音を聞きながら自分で同じ言葉をマイクに向かってしゃべらなくてはなりません。よほどタイピングの遅い人ならまだしも、高速入力者になると、音を聞きながら手で打っていったほうが、ずっと早いのです。
しかし、2000年7/28に発売されたNECの音声認識ソフトは、5分間の音声トレーニングなしで、いきなり聞こえてきた声を認識して文章化できるようになりました。つまり、カセットデッキから聞こえてくる音声をマイクが直接拾って文章にしてくれるわけです。しかし、私自身、まだ実際に試してみたわけではありませんので、これが果たして実務で使いものになるかどうかは未知数です。ソフトの価格も非常に安いので、これは私も試してみようかと思っています。もちろん、句読点を直したり、漢字の誤変換のチェック、文章の整理など、人間が行う作業は最後まで残るわけですが、ノンストップで文章変換をしてくれる→それをチェックして修正するだけ、となると、大幅なスピードアップが可能になるかもしれません。
複数の声の聞き分けも、まだ実用段階ではありませんが、技術的には可能になってきているそうです。音声認識システムは、付属品を含めても個人で充分導入できる価格ですから、このような最新技術を導入して、スピード納品を売り物にし、他との差別化を図ることも可能になります。

でも、ちょっと待って!
音声認識ソフトの登場は私たちの作業効率アップにつながって、そんなにいいことづくめなのでしょうか?
よく考えてみてください。将来的には、録音状態がよく聞き取りやすい講演などは、もう外部に委託しなくてもクライアントが自社内で処理できるようになるわけです。では、在宅ワーカーに発注される仕事はどういうものになるかというと、社内で処理できないもの、つまり音声認識ソフトにひっかからないような難聴テープ、音質の悪いもの、複数が入り乱れての議論などになるわけです。
これはどういう事態を招くかというと、つまり技術力の伴わないワーカーは、ますます仕事を受注することは難しくなるのではないかということです。裁判関係の仕事が委託化されたり、テープ起こしの仕事全体はこれからも増えることは間違いないと私も思いますが、外注に出されるテープが難易度の高いものになってくる可能性があること、小さいときからパソコンに慣れ親しんだ子供たちがそろそろ大学生になる時期を迎え、安い学生アルバイトが大量に出始めるだろう(学生というのは生活がかかっていませんし、アタマも柔らかいです)ことから、出回る仕事の量は増えても競争は厳しくなるかもしれません。