クライアントによる違いを理解しよう

同じ「素起こし」といっても、最低限のケバとりにとどめるものから、読みやすい文章に整理するリライトに近いような素起こしまで、そのレベルはさまざまです。クライアントによって求められるものが違ってくることを、頭に入れておきましょう。

1 裁判所の仕事
2 会議録の仕事
3 民間企業の会議録
4 講演会・セミナー
5 インタビュー・対談

1、裁判所の仕事
聞こえた言葉を最も正確に記録しなければならないのが、裁判の記録かもしれません。テープに録音された音声そのものに「証拠」という意味あいがあるため、いかなる音声も、一音たりとも聞き漏らさず正確に起こす必要があります。言い間違えや「えーっと」「あのー」などの不用語も、発話者の心理状態を推理するための参考になりますので、そのまま表記する場合があります。

証人は、一般人が発話している場合が多く、緊張のため声が小さくなったり上ずってしまうこともあり、聞き取りにくい場合も少なくありません。

2、会議録の仕事

議会の議事録を作成することを「反訳」といいます。速記録やテープをもとに議事録を作成する技術者のことを「反訳者」と呼んでいます。そして、議会の記録のことは議事録とは呼ばずに「会議録」と呼ばれる場合が多いようです。

議会の会議録も、やはり発言に忠実な素起こしを求められます。国会の本会議の会議録はまだ外部には委託されていないようですが、各委員会や官公庁、地方自治体の会議録などは、速記者の減少という要因もあり、外部の民間業者に委託されているケースが多いようです。

地方自治体および官公庁の会議録は、「標準用字用例辞典(社団法人 日本速記協会発行)」に基づいて表記を統一しています。公的機関の会議録の仕事をする場合には、この辞典を必ず手元におくようにしましょう。

議会の会議録では、発言に忠実に起こす点では裁判と同じですが、「え〜」「あの〜」などのケバ取りは行ないます。また、読みやすい文章にするために、話し言葉を書き言葉にあらためる自治体(官公庁)もありますし、文節の倒置をしたり、重複した言葉の整理をするところもあります。発言をどの程度まで整理するか、統一された基準はなく、各自治体および官公庁によってその基準はさまざまです。明文化されたマニュアルのないところもあります。

会議録の仕事を請けた場合は、まず表記のマニュアル(仕様書)を確認します。マニュアルがない場合は、これまでの会議録の見本を必ずいただきましょう。見本があれば、どの程度文章を整理すればよいのか、おおよその判断をつけることができます。

会議録には、発言以外にいろいろなフォーマットがあります。
たとえば
「◯◯議員 登壇」
「「意義なし」と呼ぶ者あり」
などです。音声の文章化以外の要素が作業に含まれますので、きちんと仕様を理解してから作業にはいるようにしましょう。

2、民間企業の会議録

民間企業の役員会議や総会などの会議録でも、やはり「会議」という性質上、発話者の発言に忠実な表記をこころがけます。民間の会議でも国や地方自治体の会議でも共通していることですが、議事録というものは読みやすくすることよりも発言を記録することにその目的がありますので、聞こえにくいことばを適当なほかの言葉で補ったり、言ってもいない言葉を補ってはいけません。たとえ言葉を補ったほうが意味がとおると判断されても、素起こしでは入力者の判断で言葉を加えてはいけません。

民間企業の場合は、表記の基準となる辞書があるかどうかを、必ず確認します。特に定めていない場合は、こちらで表記辞書を選択し、表記の統一をします。

文章をどの程度整理してよいかについても、詳細に打ち合わせをします。国や地方自治体の会議に比べると、ある程度文章を整理して読みやすいものにまとめることを要求される場合もあります。リライトのレベルであると判断した場合は、素起こし料金のほかにリライト料金をいただくようにしましょう。

3、講演会・セミナー

講演会やセミナーなどは、読みやすくまとめることを念頭において文章を整理します。素起こしのレベルなど、具体例をクライアントと詰めなければいけないことは会議録と同じですが、講演録の場合は冊子などの読み物になる場合も多く、話の趣旨を曲げない程度にリライトすることを求められる場合も多いようです。

4、インタビュー・対談

インタビューや雑誌の対談などでは、本人の語り口をできるだけ生かすようにします。文節の倒置や不用語の削除は行なっても、発話者独特の口調や特徴を消さないように、機械的な文章整理をしないようにしましょう。

同じインタビューでも、聞き取り調査などは極力音声に忠実に記録するようにします。